須田研究室 2010生産技術研究所一般公開レポート

トップ > 2010生産技術研究所一般公開レポート

2010年6月3日(木)から5日(土)まで行われた生産技術研究所一般公開の須田研究室ブースの様子です.
須田研究室では,安全・安心,エコ,快適な交通システムの研究を行っており,今年は,X-Y方向に動くドライビングシミュレータや実写映像を取り入れたドライビングシミュレータ,鉄道車輪の新技術のデモ(逆勾配独立回転車),パーソナルモビリティのデモ,エコライドの映像などパネルと合わせて研究紹介を行い,沢山の方にご来場いただきました.
全体の紹介はこちら.→須田研究室紹介

須田研では,生産技術研究所D棟地下(De-B04)の他,連携研究棟地下でユニバーサルドライビングシミュレータのデモ,E棟ピロティ(E棟1階)ではITSセンター紹介,E棟ラウンジ(E棟2階)では,千葉実験所紹介も公開いたしました.

研究説明パネル(PDF版)と併せてご覧ください.→生研公開・千葉実験所公開資料





■鉄道の運動力学と制御に関する研究:生産技術研究所D棟地下(De-B04)


●台車がスムーズに曲線を曲がれることは,安全性の向上と同時に,騒音,振動,軌道設備の負荷などを減少できます.鉄道車両の要である台車を中心に,登場時から日本在来線の曲線最速である383系しなの号用操舵台車を筆頭に,道路交差点での曲線をスムーズに走ることを目標とした逆勾配独立回転車輪輪軸,鉄道車両の脱線予兆検出,車輪やレールと車輪の接触幾何など、様々な台車に関する須田研究室での取り組みを紹介しました.
曲線通過イノベーション







●左右一体輪軸(左)が曲線を通過する仕組みは,左右一体に回る車輪径の差(輪径差)を基本としています.紙コップを横倒ししたらどのように転がるか想像してみてください.構造が簡単ですので,広く使われていますが,最小旋回半径に限界があります.曲線を曲がりきれない時,地下鉄で良く聞く”きしみ音”が出ます.逆勾配独立回転車輪輪軸(右)は,重力による自己復元力を効果的に活用するために考案された輪軸であり,曲線半径10m程度のカーブもスムーズに曲がれるポテンシャルを持っており,新技術のデモを行いました.
逆勾配独立回転車輪輪軸







●鉄道は脱線すると,一次的な損害のみならず,運輸障害による社会的影響が大きいことから,本研究では左図に示すスケール模型車両などを用いて,鉄道車両が脱線する予兆を検出するアルゴリズムの開発を行っております.
脱線予兆検出










●左図に示す車輪とレール間における作用は,鉄道車両の挙動を決定づけるほど重要なものです.本研究では,千葉実験線において車輪・レール間の接触位置の計測を始め,実計測とマルチボディシミュレーションによる数値計算の照合など,様々な研究を進めています.
車輪・レール間の接触









■先進モビリティ(ITS)に関する研究


●東京大学生産技術研究所では,産業界,官界,学界が密接に連携してITSの研究開発・普及を進める「先進モビリティ研究センター(ITSセンター)」を2009年4月に発足させ,「人・クルマ・インフラが連携する高度道路交通システム」という従来の枠を超えて,エコでヒューマン・フレンドリーな移動の実現に有用なITS技術の研究開発に取り組んでいます.公共交通によるサポートが困難な極短距離の輸送を担うべく開発してきたエコライドの試験走行動画,自転車と自動車・歩行者との中間的な機能を期待するパーソナルモビリティ・ビークル(PMV)の最新試作機を展示し,昨年6月に内閣府・社会還元加速プロジェクトでITS実証実験モデル都市に追加認定された柏をフィールドに取り組んでいる「モーダルミックス」という新しい交通機能分担のコンセプトを解説しました.柏では本年2月にITS推進会議が発足(会長:池内教授)し,須田教授は次世代モビリティを扱う第4部会の部会長を務めており,ITSとエコライドやPMVとの連携を強め,産官学民連携のプロジェクトを次々と立ち上げているところです.
先進モビリティ研究として安全・安心、環境低負荷・低炭素社会、快適・健康を目標として,須田研究室では以下の研究テーマに取り組んでおります.
★ドライビングシミュレータとドライバ特性に関する研究
★自動車の運動力学と振動制御に関する研究
★省エネ型都市交通システム「エコライド」に関する研究
★パーソナルモビリティ(PMV)に関する研究






●先進モビリティ研究センター(ITSセンター:昨年4月に発足)では,須田教授(本年4月よりセンター長)の機械工学・池内教授の情報工学・桑原兼任教授の交通工学を中心とするメンバーによる四次元仮想現実空間シミュレータを開発しています.センターおよび各研究室のパネル,交通流計測および実空間映像撮影用実験車両の展示をE棟ピロティで行い,多くの方に立ち寄っていただきました.(左写真)
先進モビリティ研究センター(ITSセンター)











★ドライビングシミュレータとドライバ特性に関する研究:連携研究棟地下


●交通工学,車両工学,情報工学などを柱とするITSの推進には分野融合の研究が重要であり,シミュレーション検討と実環境における社会実験の間を取り持つ実験ツールが大変有益となります.産学連携のサスティナブルITSプロジェクトにより構築を図ってきた交通シミュレーションとドライビングシミュレータを連携させた「複合現実感交通実験スペース」を用いた研究は,ITSセンターの活動における特長の一つとなっています.
車の運動を模擬できるモーションを備えたドライビングシミュレータを毎年公開しており,このシミュレータは6軸モーションで車両の運動を模擬し,さらに東大では,モーションの上にターンテーブルを付加した全7軸のドライビングシミュレータとなっており,この7軸は日本初となっています.さらに,360度全方位ビジュアルシステムと交通シミュレーションを融合し,複合現実感交通実験スペースを構築し,これを活用した次のような研究を行っております.また,須田研究室だけでなく,他の研究室や大学,企業など産学官で様々なプロジェクトで用いられております.
エコドライブの研究
脇見推定手法
ドライバのステアリング特性
・タイヤ試験機と連動させたタイヤ特性
エネルギーITSプロジェクトにおけるドライビングシミュレータを使った隊列走行時のドライバ負担の生体計測など

デモは1日3回行い,日本最大級のドライビングシミュレータに多くの方に来場いただき,実際に動いているところを見学していただきました.→研究用ユニバーサルドライビングシミュレータ


★ドライビングシミュレータに関する研究:生産技術研究所D棟地下(De-B04)


●ターンテーブルの上にXYステージを搭載した世界初のドライビングシミュレータ駆動機構の研究紹介です.従来のシミュレータにはXYステージの上に自動車の運動を模擬するモーション装置とターンテーブルが載る構造が多く見られます.それに対して,この研究で提案する機構はモーション装置の上にターンテーブル,更にその上にXYステージを搭載する構造となっています.これによって自動車旋回時の回転中心をリアルタイムに変更でき,運転操作感覚を向上できるものと期待されます.
駆動機構の装置は現在調整と研究を行っている最中であり,お客様には遠くよりその姿をご覧いただく形となりました.来年の公開では皆様にこの装置が動いている様子をご覧いただけるよう,研究を鋭意進める所存です.
臨場感向上のための新モーションシステムの提案








●世界初の実写映像とカットボディを組み合わせたドライビングシミュレータのプロトタイプを展示しました.このシミュレータの特徴は,@実写映像とCG映像の合成によるリアルな映像の生成,Aミニバン実車両のカットボディを活用です.合成映像の実現によって映像準備のコストと労力を抑制でき,実験可能な道路・地域を飛躍的に増やすことができるものと期待されます.映像の合成 にはコンピュータビジョン工学分野の池内研究室が開発した手法を利用しています.
このシミュレータはお客様の目に入りやすい場所に展示されており,カットボディが置かれていることへの驚きとこれまでにない呈示映像の珍しさから,注目を集めていました.
世界初の実写映像とカットボディを組み合わせたドライビングシミュレータ








★自動車の運動力学と振動制御に関する研究:生産技術研究所D棟地下(De-B04)


●自動車エリアでは,ドライビングシミュレータを用いたエコドライブや脇見推定の研究の他,タイヤ試験機を使ったタイヤの特性やタイヤにキャンバ(車を後ろから見るとタイヤが八の字に見える)角を与え,省エネ性と操縦安定性の両立を模型車両を用いて検証した研究,混在信号から特定の信号を抽出することができるICA信号処理を用いた走行中の車両加速度からの路面推定の研究などの紹介を行いました.
タイヤ試験機を所有する研究室は少なく,来場者の方も物珍しげに試験機を見学していました.
さらに,自動車のサスペンションを電子制御・電磁デバイスのサスペンションに変え,回生を利用したエネルギ効率の向上と乗り心地の向上を実現したサスペンションを中野研究室と共同で研究開発しており,エネルギ回生の仕組みを実感できるデモを行いました.
路面・タイヤ走行模擬試験装置
キャンバを利用した車両の運動特性に関する研究
タイヤ・路面状況計測と推定
自動車用電磁サスペンションの開発研究





★省エネ型都市交通システム「エコライド」に関する研究:生産技術研究所D棟地下(De-B04)


●エコライドはジェットコースターの技術を取り入れた新しい概念の都市交通システムで,軌道の所々に設けた車両引上用装置により高低差を利用して走行します.車両に動力機構を持たないため,車両・軌道の軽量化と省資材化を図れ,省エネ走行が可能です.ITSの技術を活用した他の交通機関との連携も期待されています.
エコライド実験設備は千葉実験所に設置しているため,ビデオ映像を交えながらの紹介となりました.
実物をご覧になりたい方は本年11月の千葉実験所一般公開へぜひ足をお運びください.
省エネ型都市交通システム エコライド















★パーソナルモビリティ(PMV)に関する研究:生産技術研究所D棟地下(De-B04)


●近年,従来の自動車交通や鉄道などの公共交通のみではカバーできない新たな交通モードの整備が求められており,公共交通や自動車と連携できる利便性・柔軟性を有する新しい乗り物の検討が重要となってきています.そこで,新しい移動手段となる個人的な乗り物(パーソナルモビリティビークル:PMV)を研究しており,ITSを活用し,他の交通機関との連携を図っています.須田研究室では中高速走行時には自転車モードで,低速走行時には平行二輪車モードという状況に応じて使い分けができるハイブリッド方式を提案しています.今回の公開では,平行二輪車モードの試験車両でデモを行いました.
パーソナルモビリティ・ビークルの運動と制御
歩行者に対するパーソナルモビリティの親和性評価









■鉄道・自動車の快適性,乗り心地に関する研究:生産技術研究所D棟地下(De-B04)


●東京大学生産技術研究所の分野横断活動の特徴を生かし,建築工学,機械工学,情報工学,電気工学,環境心理学,生体システムなどの幅広い分野の研究者が参加する"快適性の工学的応用に関する研究グループ"において,人間行動モデリングを通じた快適な車内空間のデザイン手法を開発しています.これまでに鉄軌道車両では,通勤電車の座席配置,ライトレール車内空間の運用方法,新幹線シミュレータの設計手法,シミュレータを用いた乗り心地評価手法を提案し,自動車(ミニバン)を対象にした検討も進めています.エコライド試験車内空間レイアウトの提案,回転シートを用いたミニバンシートアレンジメントの提案について,新たにパネル説明を追加しました.
シートアレンジメントに着目した自動車の快適性評価手法に関する研究
鉄軌道を対象とした定量的な車内快適化デザイン手法の構築
人間行動生態心理学に基づく自動車車内の快適性評価に関する研究
視覚と振動の関係に着目した鉄道車両の乗り心地官能評価実験






■マルチボディ・ダイナミクスとその応用に関する研究:生産技術研究所D棟地下(De-B04)


●マルチボディダイナミクスは,簡易化された解析モデルとは異なり,個々のボディを組み合わせて複雑なモデルを構築することで,より詳細にモデルのダイナミクス解析ができ,要素の評価が可能となります.この技術をドライビングシミュレータに導入することで詳細な車両モデルを考慮したシミュレータを開発,また柔軟なボディのモデリング技術の研究を行ってきました.
フライホイールを用いた車体傾斜制御の研究では,フライホイールを搭載した鉄道車両モデルの運動方程式をマルチボディダイナミクスの技術を用いて構築し,制御系設計に活用することで適切なゲイン設計を行い良好な車体傾斜制御結果が得られました.
マルチボディダイナミクス
車載用フライホイールのジャイロ機能に関する研究
タイヤの動特性に関する研究
タイヤ・路面状況計測と推定






■生産技術研究所千葉実験所紹介:E棟ラウンジ

●E棟ラウンジでは生研千葉実験所で研究活動を行っている研究室が各々の研究を紹介しました.須田研究室は実験所内に1/10スケール実験線やフルスケールの千葉実験線,エコライド実験設備,交通実験用信号機などを有しており,それら実験設備とそれを活用した研究を紹介しました.
千葉実験所でも一般公開を11月に行っています.須田研究室の千葉実験所での研究活動にご興味をお持ちの方はぜひ一般公開へ足をお運びください.
昨年度の千葉実験所公開レポートも公開しております.→2009年度千葉実験所公開レポート


■準静電界を応用したセンシング技術に関する研究:F棟ピロティ


●須田教授は,生産技術研究所モビリティ・フィールドサイエンス(タカラトミー)寄付研究部門にも所属しており,同部門の滝口研究室とも準静電界を用いたセンシング技術に関して研究を行っております.デモとして,自身の電界に音楽データを乗せ,近づくスピーカーから音を出す体験などをご来場の方に公開いたしました.
滝口研究室のページ










上記では説明しきれない研究も多数ありますので,研究説明パネル(PDF版)も是非ご覧ください.→生研公開・千葉実験所公開資料



Copyright (C) 2010 Suda Laboratory
Institute of Industrial Science 2nd Block, The University of Tokyo